匂い。
a little dragon couldn't fly. _scent
嘉神は何も言わない。
だから楽だ。
それ以前にこの関係に今まで知った名前を付けられない。
半屋に貞操観念はなく。
「香水を?」
傍らに来た嘉神が短く発した言葉。
好きでもないただ性欲を発散するだけのセックス。それに付随してつきまとう不愉快な匂い。
求められたから、暇だから、どうでもいいからする。顔くらい覚えていたっていいのに。会話は一方的で。
『半屋君マジ、チューうまい。』
自分と釣り合ってる。そう思う。次はない。次は違う人間といる。意味なんかない。楽しいわけでもない。
嘉神は、違う。
「誰かのが付いたんだろ。」
短く答える。全く異なる日常を抱えたこの男に言外の意味は通じるだろうか。
未だに考える。自分の過ごしてきた日常を嘉神は理解できるのか。
「そうか。」
嘉神はそれだけ。一瞬だけ離れた視線に、理解されたことを感じた。
半屋は待った。嘉神の次の言葉を。
「良い香りだな。」
「・・・・・・・・・・・!」
最悪だ。
腹を立てるのは筋違いだと思い当たる自分に血の気が引く。そんな言葉が欲しいんじゃない。じゃあ何を欲してる?
「・・・・・・・・・・んで・・・・・・。」
嫌味じゃない。嘉神はどんな思いでそんな台詞を口にする?
思うようにいかない。完全に足を取られててる。
楽じゃない、ちっとも。束縛されないから楽なんじゃない。
束縛されたがってる。いつのまにか。
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