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「痛そうだな。」 膝の上で握られた拳に、突き出た骨のその上の堅くなったタコに梧桐が触れてくる。 傷が乾くことはない。積み重なる力のためにそれは分厚く堅くなっていくような気 がした。何も身に纏わずに何の道具も持たずいたら、その身体が勝手に武装を始めて る。 「痛そうだ。」 梧桐は笑うような顔でその傷に触れる。当たり前の言葉を半屋は黙って聞く。幾度 聞いただろう、その言葉を。 『痛そう』 『痛くないの?』 『見てるだけで痛いよ』 まるで自分が傷ついたが如く顔を顰める。 勝手に言えばいい。 心に入り込もうとする相手の試みを受け入れず気付かぬ振りをして、何の感傷もな く突き放して来た。どんなにわかろうとしてもその痛みは自分のものでしかなく、本 当でも嘘でも、その人の感じる心の痛みはその人のものでしかない。 誰かにとって特別になりたい。べったりとした優しさで繋がろうとする。半屋にと ってそれは厄介でしかない。 幾度も飽きるほど投げかけられた言葉を梧桐が口にする。遠慮なく傷口に触れなが ら。それを赦している自分がいる。 本当をいうと、もう痛みを感じなくなっている。 「痛そうだ。」 繰り返す。 媚びもない、同情もない。 自分はこの男と同じ方向を見ていただろうか。睨み合っていたはずが、並ぶように 彼方を見ている。当たり前の言葉が当たり前に聞こえない。 こいつだからだ。 梧桐が発した言葉が自分に届くまでの間、他の人間のそれと何が変わるだろう。 梧桐だからだ。 ただ“それだけ”の限りなく大きな意味。この拳が他の人間との違いを示す標とな る。この手は自分のモノだ。それを今更自覚する。 口角を上げて強気な目で梧桐が笑う。気を許してる訳じゃない。馴れ合いたいと思 ったことなど皆無だ。その存在がちょうどいい。 それだけのことだ。 |
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