「寒く、ないのか?」

 

 

[ a little dragon couldn't fly. ]

 

 

「・・・・・・・・・・はああ?」

あまりに思いがけない台詞にしばらく言葉がでなかった。
彼なりに寝過ごして、一般の生徒達と帰宅時間が重なったある日。
指定のコートに身を包み、マフラーまで巻いた生徒達の間をいつものブレザー姿で歩く彼。
相変わらずネクタイは緩められシャツのボタンは開いたまま。
誰も近づいては来ない彼の視界にふと影が差し左斜め上を見上げれば

『寒く、ないのか?』

そう言って自分の二の腕を掴んだのはさっきまで資材置き場で思い続けた顔。
色の白い彼の頬が火照る意味を質問主は気付いただろうか?

「・・・・に言ってやがる。」
「これを貸してやる。」
「あん?」

訝しげな彼を包んだのはかの人の首にあったはずのマフラー。
いらないと言う隙も与えず明らかにサイズの違う作りのマフラーは彼の鼻まで包み込んでしまっていた。 身体に染みついた筈の拳が繰り出せない。なぜならその左腕はしっかりと掴まれたままで。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

ぐうの音も出ずに彼はかの人から顔を反らずだけの行為でせめてもの抵抗を表明した。
なにかを叫びでもすれば声でも裏返りそうだ。
そこまで彼を動揺させたのは毛糸の表面にも奥にも染みついたかの人の匂いと温度。

(逃げてえ・・・・・。)

生きてきて初めて本気でそう思ってる。

「本当に毎日毎日いつみてもコートも着ずに、風邪を引かないのかお前は。」

(マイニチマイニチイツミテモ)
心の中で復唱してしまう自分が哀しい。掴まれたままの腕に心のさざめきが集まっていく。
いつものように無関心でいられたら楽なのに。

(おまえこそだいじょうぶかよ)

声にはならない言葉。

「・・・・・・・っ。」

腕をふりほどく。とにかくここでは人の目が気になりすぎる。
『四天王の2人』
いやがおうにも学園内では注目を集めてしまうのだ。
それを彼だけが気にするのは互いに対する気持ちの違いなのか。
彼は振り返らずに、できるだけ平静を装ってかの人から離れた。

「それ返さなくてもいいからな!使ってくれ!!」

顔から火がでそうな台詞を背中で聞きながら、いつもよりも早足になっているのを彼自身は気付けなかった。

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