[ a little dragon couldn't fly. ]
_EVERYDAY EVERYTIME.




期待させずに知らないフリしたまま驚かせたい喜ばせたい。
どうしてそんな面倒なことを考えたりするんだろう。


単刀直入に本人に尋ねるの、悪いことではないけれど無粋だと思うこともある。照れく さいとかそんな感情もどこかに見え隠れ。
例えば彼の誕生日がいつなのか知らないことに気付く。
それが最初。
いつもの会話を思い出す。何を話してたか。自分が彼に何を話し、彼は何の話をしてい ただろうか。
思い出す。
彼がどんなに無口だったか。
入院中の少年と交わすメールの話をし、休日のボランティア活動の話をした。
通っている道場の話をし、日常を話す。
いつも喋っているのは自分ばかりだ。


知らない。
どんな音楽を聴くのか。
いつも音楽を聴いているのを見るのにそんなこと、一つも知らない。
彼の着ている服のブランド名を知らない。
他人の目なんか少しも気にならないフリをして、意外と自分を飾ることが好きだってわ かってるのに。
どんな雑誌を読むのか、どんな店に行くのか。
彼のテリトリーは自分の知らない街。
全然タイプの違うふたりだから共通の友人も殆どいない。


例えば何か贈るとしたら。


考えて頭を悩ませる。
知っているつもりだった。
彼が何が好きか。
何を欲しがっているのか。
今どこにいるのか。
今なにをしているのか。


中庭の花壇に水を撒きながら考える。カラになった如雨露を片手に下げたまま空を見上げ る。四階建ての四角い校舎。まっすぐの屋上の向こうに、雲が吸い込まれていく。


前よりも笑っている場面の増えた自分に気付く。
前よりも丸くなった“正義”を悪いことだとは思わなくなってる。
自分を純粋にただただ信じてた筈の過去よりも自分がちゃんと存在しているような気がす る。誰にも侵されることなく、侵されたとて、対峙する力はここにある。
こんなにも大きな存在なのに。


彼についてなにを知っているだろう。
髪の色、肌の色、瞳の色と掌の大きさ。
ぶっきらぼうな物言いとたくさんのピアス。ジッポライターの柄と刺青の龍。
煙草の銘柄はいつも同じなわけじゃなく、最近は少し煙草の量を減らした。
だらしない制服と意外と小綺麗にしてる私服。
照れたような声と、アレで少しも酒が飲めないこと。
笑顔と。
思い出せばキリがないほど知っていると思うのに、なにも知らない。


自惚れてもいいだろうか。
欲しいモノなどわからない。モノを贈ることが正しいことなのかもわからない。
だけど。
嘉神は空を見上げたまま笑う。ただ目を細めただけ。
ちょっとした思いつきに笑いが漏れただけだ。

(c)copyright.K/Isafushi2002