[ a little dragon couldn't fly. ]
_EVERYDAY EVERYTIME.




期待させずに知らないフリしたまま驚かせたい喜ばせたい。
どうしてそんな面倒なことを考えたりするんだろう。


「すみません、プレゼント用に包んでもらえますか?」


レコード屋で前に並んだ女の子がそう言った。高校生男子に人気のあるメロコアバンド のCDだった。
そういえば、なんて思ってしまう自分がいる。
多分どっちもどっち。お互いのことを探らないから何も知らない。
そう言えば、思いついて一人で赤くなる。
誕生日なんか知らない。


誕生日を祝うなんてこと縁遠い。誰かの誕生日を祝うクラブイベントに無理矢理連れて 行かれたことがあったかもしれない。センスのないガキばっかり集まって、金だけだし て造ったパーティだ。音楽のお粗末さとその場のくだらなさに即抜け出した。
つまらないつまらないイベントでしかなかった。なにか貰ってももうなくしたか、記憶 にもない程度。


あいつなにが好き?
あいつどこに住んでる?
あいつどんな音楽を聴く?
今なにをしてる?


くわえた煙草に火も付けず、ガードレールに腰掛けた。見上げるのはビルの最上階に切 り取られた空。
最近、以前ほど苛々しなくなった。
好戦的な気持ちが弱くなったわけじゃない。スイッチが入る格別の速度は相変わらず。
ただ驚くほど無意識の中で、人混みに彼の姿を捜すがいる。人混みの中で頭二つ分くら い飛び出したの背の高い人。 広い肩も褐色の肌と色の薄い髪も、落ち着いた微笑みも。
探さなくたってすぐにわかるのに。


南米にいたことも、料理が得意なことも子どもが好きなことも、ボランティアなんか好 んですることも知ってる。
太い首。綺麗に太陽に灼けた肌。見たまんま大きな手と短い爪。
ファッションなんか関係ないなんて顔をしながら、触れると柔らかい髪をちゃんと立て てること。
落ち着いた顔をしながら意外と子どもっぽいこと。
生真面目が邪魔をして煩い小言の数も最近は少しずつ減ってきた。
なんの躊躇もなく触れてくる指。
過去にはないほど、記憶に残っているはずなのに。


通り過ぎて行くだけの、無駄なほど溢れているモノを選ぶとしたら。
誰かのために選ぶこと。自分の為に選ぶことは日常。
無駄なように見えるたくさんのものから誰かの為に何かを選ぶ。
無意味に思えるモノに、意味が見える。


なにを欲しがっているのかなんて知らない。


だから、何だってイイ。
だから、自分が好きなモノを贈ればいい。


心に浮かんだ思いつきに半屋は口の端だけ上げて少し笑う。

(c)copyright.K/Isafushi2002