鎖骨に浮かぶ小さな龍が離れない。
自分が世話好きなことは認めよう。
だが、自分でも持て余す気持ちが離れない。
平然を装いながら違和感を隠せない。
自分の気持ちではないようだ。
コントロールできない。
持て余す気持ちが暴走しだす。

[ a little dragon couldn't fly. ]



「よう。」
「・・・・・・・・・。」
驚いた。
彼から声をかけてくることなどきっとあり得ないと思ったから。
彼が下から自分を訝しげに見つめている。
やっと、驚く自分の不自然さに気づく。
「珍しいな。声をかけられるとは思わなかった。」
正直に自分の心を告げる。心の中に巣喰い続けて離れない違和感を押し出したかった。
そしてなにも、疑われたくはなかった。

寒さのせいか、彼の目元が赤い。彼の首には長すぎる深い緑の毛糸のマフラー。 それを彼は何度か首に巻き付けて結び目を後ろに持ってきている。
「別に・・・・姿が見えたから。」
      用が有るわけじゃねえ。
小さな声で彼は呟いた。

せっかくマフラーをしているくせにシャツの胸元は相変わらず開きっぱなしで。
そこからは小さな龍の尻尾だけがちらりと覗く。
言葉が見つからず黙りこくる。
まるで刻印のように心から離れない小さな龍。
気の利いた言葉を無理に探そうと試みる自分。
まるで自分が自分でないような違和感に襲われ、感じたことない不安を感じる。

シャツのボタンをしめてやらなくちゃならない。

不愉快なほど馬鹿げた考えが頭をよぎっても苦笑いすら出来ない彼の前にただ立ちつくす自分。
色素の薄い彼の唇が今日はいつもより紅い。
この薄着で、風邪を引いてもおかしくはない。

「じゃあな。」
隠しきれない不自然さに、きっと彼は気づいたのだろう。
別れを告げて歩きだす。
いつもより心持ち弱い肩。

振り向けない。
どうしてこんなに存在が心に違和感をもたらすのか。
隙間を押し広げていくようだ。
それは怒りにとてもよく似ている。

嘉神は振り向いた。

腕を伸ばす。

止めることが出来なかった。
彼の肩に嘉神の強い指がかかる。
嘉神の強い腕に引かれて彼の細い躰がぐらつく。
抗議の言葉もなく、彼の躰が嘉神の腕の中に納まる。

「あ。」
嘉神は声を漏らす。
そうだ。
たぶん、自分は彼のことが赦せないのだ。  

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