痛み。
けして相容れないと思った。
許容範囲を越える他を受け入れようとする痛み。
それでも他人ではいられない。
胸の痛みが頭で理解することを蝕んでいく。
らしくない被虐的な痛みすら快楽にかわる。

[ a little dragon couldn't fly. ]



「・・・・・・・・・・っ。」
今まで目に映る世界が一回転する。
強烈な眩暈。
声が出ないのは体調が悪いせい?
工は自分の躰がただ硬直し、珍しくも声すら出ないことに気が付いた。
頭ではわかっているはずの今の状況を理解することが出来ない。

声をかけたのは自分のほうだ。
学校という枠の中で四天王とか何とか呼ばれるという共通点が有るだけの男。
そいつが一体どうして自分に興味をもったのか。
どうして自分がそれを無視しなかったのか、自分でもわからない。
わざわざ工業化まで自分の顔を見に来た。
寒空の下で声をかけてきた。一見して手編みとわかるマフラーを首に引っかけられた。
はっきり言って工にとってそれは嫌がらせ以外のなんでもない。
惜しげもなく人にモノを与えるところを見ると貰い物ではないらしいソレ。
深いグリーンの長すぎるマフラー。
梧桐に突っ込まれても相手にする気力すらなかった。
梧桐はすぐにそれを嘉神の手編みだと言ったが信じられなかった。
変すぎる。

他人なんか基本的にどうでも良くて、強いて言うなら直接やり合ったなかで それなりに気にして、機会が有れば戦いたいと思うのは梧桐と 四天王と呼ばれる八樹くらい。
自分から仕掛けることはほとんどないし、嘉神なんかわざわざどうこうしようなんて思った例もなかった。
ただその存在を存在としてとして認識していただけ。
絶対に理解できない人種だと思った。
梧桐と話しているところを見ても、他の誰かと対峙しているところを見てもなにかがおかしいのだ。
その信条とするところが理解できないのも当然、あまり関わりたくないと思うのも当然。

一体どうして、
何がどうなったら、この大男は自分を“抱きしめた”まま、押し黙っているのだろう。
・・・・・・・この異様な状況。
頭では理解できても、振り解けずに硬直したままの自分がそこにいる。
まるで言葉を待っているようだ。

どうしてか、工は誰も通らず、誰も自分たちを見ないことを幸いとした。
委ねてしまいたい。
折れそうな膝と眩暈ばかりの意識を。
それほどまでに弱くなっているのか自分は。
この男に弱さを晒す?
なぜこの男なんだ?

工は霞むような意識の中で自分を取り戻そうとした。

「にしやがんだよ!」

嘉神の腕をふりほどく。
あっけない弱さで腕は解かれた。
呆然とするように自分の手を、頬を紅潮させた工を見比べる。
まるで自分が何をしたのか理解していないかのようだった。
言いようのない怒りが工を襲う。
拍子抜けするような腕の弱さにも、呆然とした嘉神の顔も。

気になってんじゃない。
違和感なんてモノじゃない。
理解できない。
受け入れられない。
こいつの存在を、赦せない。

(c)copyright.K/Isafushi2002