いつも君のことをみててあげる。
君の望むことは何だってしてあげたい。
今までとは違うんだ。
他の誰とも違うんだ。
誓うよ、君にこの手をあげるよ。
いつだって君の味方でいる。


[ I always stand by you. ]



 クリフォード・ローヤー。
成績は悪くないし、モデルやってるから容姿も悪くないでしょ。
しかも世界有数の財閥ローヤー・カンパニーの御曹司。
で、今は明稜高校生徒会長梧桐勢十郎の“下僕”。


「ぎゃーごめんなさい!!悪いのは僕です!ひぃぃ…たすけてぇぇぇ。」
 ああ、なんて間抜けな姿。とてもアメリカのパパやママには見せられない。っていうか 必死なんだけど。
 そんな渾身の叫びもむなしく、僕は鉄拳に沈む。そんな日常。
日本に来て、生徒会に入って1年目は楽しかったなあ。それが僕が二年生になって、どん な可愛いフレッシャーズが来るんだろうなんて期待し てたら。
「うがぁっ!クリフ貴様ぁ!」
 梧桐勢十郎。
生徒会長っていうか、番長。番長って言うか暴れ馬。暴れ馬っていうか野獣っていうか 怪獣って言うか人以外?
 一年生が生徒会役員に立候補できるのは後期からなのに、入学するとすぐに生徒会室に やってきて、当時の生徒会長を脅し……いや、実力でその座に着いてしまった。唖然とす る僕らをやっぱり脅し……そうじゃなくって、その指導力でこき使って半期が過ぎた。


次の選挙。
 やっと解放されるなんてみんなほっとしてたら、偶然二人だけになった生徒会室で君が 言ったんだ。
「お前は来期もその先も俺の下僕だ。」
 ほんと、僕のことを何だと思ってるんだろう。




君はどうして僕を選んだんだろう。
僕に自由になるお金が腐るほどあるのを知ってるから。
僕が簡単に言うことを聞くと知ってるから。
僕がガイジンだから。


僕がここにいるのは、君が信じることのできる存在だと知るから。



最近半屋君が少し変。
君はそのことに気づいてる。
僕は、そのことを知ってる。
背の高い君の友達が傷つけられたのを知ったとき、君はそのことに怒りながら、半屋君に ちゃんとそのことを伝えた。君が手紙を託したのは僕。


『いいの?』


そう訊こうとした。だけどやめた。



それも大分、前のこと。


いまさっきそこで、半屋君が嘉神君の名前を口にした。。
それだけで、君はさっきから黙ったまま。
君は誰に対しても、同じように手を差し伸べたりするんだろう。
だけど、
「君はきっと、彼のためなら、彼が君に何かを望むならなんだってしてあげるんだろうね 。」
 セージは笑わなかった。いつもなら、きっとどんな感情も贋物の怒りで覆い隠して、照れ 隠しをしたり、弱さを見せまいとするのに。
 僕は“彼”には勝てないと思った。なのにどうして、僕は微笑んでいられるんだろう?嫉 妬よりも先に、心を貫く想いを、僕は知らない。


「君には、僕がいるよ。」
 腕を伸ばしても、セージは振り払わなかった。
「君の為にならなんでもしてあげる。」
 だから抱きしめた。
「何があっても君の味方でいる。」
 いつもの生徒会室で、いつもの生徒会長の席に腰掛けたセージ。抱きしめたら、セージの 表情は見えなくなったけど
「君が彼にフラれても、僕が君をみていてあげる。」


「・・・・・・・・・うわっ!?」
 気がつくと僕は何メートルか吹き飛ばされていた。うがぁ!とかなんとか、いつもの叫び 声をあげたセージが立ち上がり、僕を投げた。
「・・・・・・あたた・・・・・酷いよセージ。」
 いつものことだけど、そう小さな声で付け加えれば鋭い視線がこっちを向く。
「あ、いやいやいや僕なんにも言ってないったら。」
「うるさーい!」
 僕は床に尻餅をついたまま後ずさる。
「貴様意識のない俺様になにをしたぁ!」
「・・・・・・・はあ?」
「貴様俺に毒を盛ろうとしたなぁぁ!?」
「へっ?」
 まさか、そんなこといつも思ってマスなんて言えない言えない。言い訳するよりも先に椅子 が飛んできた。避けるのも随分巧くなった。そんなことなんの自慢にもならないけど。
「全く不愉快だ!口直しに肉を食ってくる!全く!俺様が誰にフラれるんだ!」
・・・・・・・・・・へ?
 目を三角にしたセージが出ていった生徒会室の重厚なドアが閉まる音を僕は呆然と聞いた。


「嘘。」
 どうして、僕が言ったことがわかったんだろう?英語でなら聡い君はきっと意味を理解して 怒るだろう。日本語なんてシャレにならない。だからわざわざ、僕はフランス語を選んだのに。


 僕は床に転がって、ため息をついた。飛び切りに大きなヤツを。君がフランス語も理解するな んて知らなかった。随分と一緒にいるようで、まだ知らないことがたくさんあるね。


「うわぁ。これは酷いなあ。」
 速太君が生徒会室に入ってくる。生徒会室はいつもの、大惨事。まさに嵐の後だろう。椅子は、 書類は散乱し、僕は床にのびてる。
「クリフさん。大丈夫ですか?梧桐さんったらほんとに。」
 セージ、セージ、セージ。さっきそこを出ていった彼の横顔を急に思い出した。
「あれ?クリフさん?」
 手許の書類を掻き集めた速太君が近寄ってくる。
「何笑ってるんですか?」
 頭打ってないですよね?
 確かに頭打ったかもね。でもそれは今に始まった事じゃない。最高に訝しげな速太君。ありがと う、僕には心配ご無用だよ。


ねえセージ。
どうして君は僕の口説き文句を、解っているくせに解らないふりをしたの?
どうして黙って僕の言葉を聞いていてくれたの?
どうして最後に、僕の言葉を理解したと告げてくれたの?
ねえセージ。
僕は少し、期待してもいいのかな。

(c)copyright.K/Isafushi2002

今回の一曲は、[stand by me.]ではなくて♪エヴィシン ゴナ ビ オラ〜イ ってローリン・ヒルが、っていうかフージーズが唄ってたヴァージョンの。アレは題名 は[Everything gonna be alright.]でいいんですかね?今頭の中をぐるぐる廻ってて 消えません。