[ ランブルフィッシュ]


 テニスが好きだ。なんで、って言われても答えられない。負けたくない。ずっと 走り続けられたらいいと思う。努力しかない俺には多少の焦燥感を忘れられられな い俺を、あいつは「余裕がない」と笑う。


 とても好きだ。なんでって言われても答えられない。負けたくない追いつきたい 近づきたい。あいつの余裕と才能の前に愕然としても、俺はまだ負けられない。
 押し寄せるような人波の神社の石段で、俺は着物の裾をたくし上げた。
「なにやってんのお前。」
 跡部が眉を顰める。あの“お母様”もこんなふうに顔をしかめて俺を諫めるのか な。無理矢理に晴れ着を着せたことなど、微塵も悪いこととは思わずに。
「こんな石段上がれっかよ?」
「人の目が気になる。」
 正月三が日の人混みの中で注目を浴びてんのは、むしろ俺じゃなくて跡部だって 、こいつは気付いてない。跡部に完璧目を奪われちゃってる彼女の彼氏なんてマジ 惨め。マジダサイ。むかつくけどいい男なんだよお前。
 跡部は何段か上の石段から下りてくる。
「おぶってってやろうか。」
 マジ顔でいうのやめろよな。お前におぶられる位なら、あの樺地とかいうでかい 一年に担がれた方がなんぼかマシだよ。俺は着物の裾を離す。妥協して、だけど裾 を割って石段を登った。


「真剣だったな、何願ったんだ?」
「跡部がレギュラー外れて俺が代わりにレギュラーになれるように。」
 跡部は鼻で笑った。ヤなやろーだ。
「跡部は?」
 ぶっきらぼうに一応訊く。跡部はまた鼻で笑って、おまけに今度は俺を見下した。
「俺は神頼みなどしない。」
 げー。
「だったらなんで初詣とかすんだよ。」
 バーバリのマフラー、バーバリのコート。ポールスミスのシャツ。中学生のくせ に完璧に着こなして、跡部は面白そうに笑った。あのいつもの不愉快な笑顔で。
「お前が面白い格好してるからだよ。」


 反論するより先に抱き寄せられた。人の波を避けるため。分かってる、そんなこ と。だけどものすごくびっくりする。跡部はそのままで歩き出す。はぐれないため。 わかってる。
 冷静になろうとする。跡部はわかってない。こいつは俺が、この想いを告げたら どうするんだろう。少しくらい、動揺してみせるんだろうか。


 俺の心拍数なんか、ほんの少しもわかって、ないのかな。すこしくらい同じ気持 ちがあればいいと思うのは高望みしすぎなのかな。ダサイうえにむかつく。跡部が 無言でなにもいわない。自分だけ喋るの癪だし、なにより俺には喋ることがなんに もない。
 だけど黙っているといろいろ考えてしまう。男同士で、多分端から見たら俺とコ イツは友達同士で、同じ部活にいて、こんな風に身体が触れることなんかゴマンと あるんだろうな。だけどコイツは他の同年代のヤツらみたいにじゃれ合ったり、暑 苦しい(特に長太郎っていうでかい一年はひどいよな)ことは絶対しない。ていう かみたことない。だから思う。期待してしまう。ほんの少しでも、自分が跡部の特 別になれたらいいのに。


 跡部は並んで戦うことを赦してはくれないだろう。勝手に追いかけるなら、赦さ れるのかな。あー、後悔なんかしたくねえなあ。
 俺は肩に廻された手を握ってやった。
「なんだ?」
 跡部は振り払わずに、俺を少し見下ろした。
「別に。」
 俺は跡部の頬が少し赤いのに満足した。それはきっと、俺じゃなくて、参道 の人混みのせいなんだろうけれど。


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*comment
正月ネタは一応完結で。ほんとに長太郎くん無視で。ジャンプも全然読んでないん でいまいち二人の喋り方が掴めない。跡部氏に到っては読んでも掴めないだろうな あ。(悩)
music;KenHirai/changing same.

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