苛々する。
校内を彷徨いていたら梧桐にあった。
何か言っていたが無視して通り過ぎた。
そうしたら問答無用で(彼の場合問答無用でないことの方が珍しいが)首根っこを押さえつけられ 生徒会室に押し込まれた。

[ a little dragon couldn't fly. ]



「んなんだよ・・・・・。」
げんなりとして目の前に、腕組みしていつものように尊大に立っている男に対して呟く。
その男は鼻で笑うと口を開いた。
「ふん、サルでもテンションが低いことがあるんだな!」
「・・・・・・・・・はあ?」
ついていけない。訳の分からない輩と訳の分からない事が多すぎる。
考えるのは苦手だ。だが勘弁してくれと口に出すのも悔しい。
「恋煩いか?」
「・・・・・・・・・・・。」
思わず考えた。
考えるのは嫌いだが、なにかものすごく気に障ることが梧桐の口から出たような気がする。
「はっ、やっぱりサルはおバカだな。理解能力が著しく低いらしい。もう一度言ってやろう。
『恋煩い』か?」
工の眉間に皺が寄る。梧桐が言うことも尤もかと思うくらい理解能力が低下しているらしい。
「・・・・・・・お前こそ頭大丈夫か?」
取り敢えず、額面通り理解したらしい工が不愉快な声で言い返す。
その性格に相応しくなく冷静に対処できた。
それがまた、明らかにおかしいのだ。
その違和感を楽しむのかと思えば、笑っているはずの梧桐の眼が光を放つ。
そんなことにも工は気づけない。
頭に血が昇るでもなく、ただむっつり黙ってしまった。
「驚いた。」
「・・・・・にが・・・・?」
「サルは発情したらまっしぐらかと思っていた。」
「に言ってんのか全然わかんねえ。」
はあ、と梧桐は大仰にため息を吐いた。
工は、それにすら反応しなかった。
おかしな梧桐。おかしな自分。
不意に自分に腕が伸ばされたのにも、即座に反応できなかった。
バランスを崩す。
開いた胸元を捕まれて引き寄せられる。


「・・・・・・・・・・・っ・・・・・・?!」


惚けたように開いた唇に暖かく濡れた舌が触れた。
「にしやがんだっ!!」
どんっ!
やっと反応できた。
工は梧桐を突き飛ばしざま、蹴りを喰らわす。
だがそれは予期され尽くした行動のようにかわされた。
梧桐の躰に残ったのは突き飛ばされた衝撃だけで。


「てめえといい!嘉神と言い何考えてやがんだよっ!」


「ほほう。」
梧桐の口端に浮かんだのは面白そうな笑い。
「嘉神、か?」
「!」
後悔してももう遅い。言い訳とかごまかしとか、出来るほど器用じゃない。
ごまかしとか言い訳とか、する必要なんかない、そんなことに気づくほども器用じゃない。
「嘉神となにがあった?」
「にもねえよ!」
工は声を荒げた。
今度こそ頭に血が昇る。白い頬が紅く染まる。
唇に残る梧桐の感覚を腕で拭う。
掴みかかりたい衝動とそれをとどめようとする気持ちの悪いブレーキ。
自分の中のなにかが崩されていく。
最近躰の何処かを蝕む不安が沸々とわき上がる。
“受け入れるな弾き返せ!”
心で叫ぶ。
拳を繰り出し、梧桐が避けた方向に蹴りを落とす。
随分と、自分で重さがわかるほど蹴りは躰に反響してきた。

「お前ら頭ヤバイんじゃねえのか?」


ばたん。
乱暴に閉まり、少し軋んだ扉を見つめて梧桐は呟く。
「それはお前の鈍感さが悪いんだろうが・・・・・。」
蹴りの入った腰をさする。
「・・・・・・・・・ちっ。」
蹴りがヒットした。
あり得ない。
動揺していた自分に、梧桐は今更ながら驚いていた。

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