自分が一人で立っているという、そのこと自体が不安になるほど揺れる。



[ a little dragon couldn't fly. ]



「・・・・・・・・・・・・・。」
眠ることができない。
目を閉じることができないでいる。
いつもの、工業科の資材置き場の上で、いつもの影が自分の居場所なのに所在なく座り込んでいる。
その唇にタバコはない。その手には火のついたままのタバコ。落ち着きなくゆらゆらと震えている。
その目は中庭の向こうに見える渡り廊下をぼんやりと見つめている。

人間がどれだけ頑丈にできているか位、身を以て経験してるからわかってる。
結構強い。そう思ってる。
短気な自分の性格が災いして、自分の日常生活がむちゃくちゃだってわかってる。
自分にとって、怪我など、痛みなど取るに足らないモノだ。
それを受けることによって強くなれるのならそっちを選ぶ。
殴られたくらいで倒れたりしない。
「・・・・・・・・・・・・・。」
笑っていた顔を思い出す。
自分が尊敬に値するとは思わなかった。
“自分でそんなこと言っても、あなたはほんと俺の憧れなんです”
そう言って笑った。
その次の日も、彼は自分の傍らで笑っていると思っていた。

突然に失ったら、言いたいことも言えなくなる。
呼びかけたのに返事もない。
滲むような後悔に支配される。

「・・・・・・・・・・み・・・・。」
誰にも自分にも聞こえない声で名前を呼ぶ。
神妙な顔で生徒会の外人が近づいてきた。
『セージが、これを君にって。』
気が乗らなかった。また“果たし状”か何かだと思った。
今日だけは梧桐の馬鹿にはつきあえる気がしなかった。
黙っているとその外人は強引に工の手にその紙切れを握らせた。
『じゃあ、僕は忙しいから。』
いつもの浮ついたような態度もなく、彼が自分に背を向ける。
胸にチクリと来るような違和感を感じた。

資材置き場で開いた紙切れには、病院の名前。住所。

毛筆書きのいつもの梧桐の文字。
あいつは何を考えているのだろう。
どうしろというのだろう。

考えても仕方がない。
ここにいても仕方がない。
病院に行っても、どうしたらいいのだろう。

関係がないと言い切れない。
紙切れなど破って捨ててしまえばいいのにそれを握ったままでいる。
『嘉神が襲われて大怪我をしたそうだ。』
単刀直入な文字。疑う余地もなく。梧桐が嘘などつかないと知っている。それを嘘だと思いたがる不可解な自分がいる。
一方で、もう不可解などと言う余地もなく確信していく自分がいる。
『俺は忙しいのでお前が見舞いに行っておくように。』
・・・・・・訳が分からない。
ただ、今は何かを考える余裕がない。

「・・・・・・・・・・っ。」
長くなりすぎたタバコの灰が指に落ちる。
「・・・・・・・・・・・。」
その指に負った小さな火傷。
冷やすこともなく、工は灰が落ちて短くなったタバコを指に挟んだまま自分の掌を見つめた。
あの日を思い出す。
突然に現れて日常を掻き乱した。

傷を癒されることなど望まない。
必要ない。
だけど、わざわざ遠ざかる理由もない。

(c)copyright.K/Isafushi2002